本ページでは、レコード針(カートリッジ)再生時に用いるフォノイコライザーアンプについてと、これを単体使用した際の利点についての解説を行います。
PHONO入力やフォノイコライザーアンプの基礎的な内容の解説ページもございますので、先に「PHONO(フォノ)入力の役割と使用方法について」と「フォノイコライザーについて Vol.1 基礎編」のお目通しをお勧めします。

レコードプレーヤーをアンプやミキサーなどの機器に接続する際は、機器側の「PHONO(フォノ)」と表記された入力箇所(フォノ入力)にプレーヤー側のケーブルを接続する必要があります。
この入力端子は、一般的なアンプに備えられたLINEもしくはAUX、TUNER、TAPE端子などとは異なり、レコードプレーヤーから送り出された音声信号以外を扱うことはできません。その理由は、フォノ入力の先にはレコードの音声を適切な状態に整えるためのフォノイコライザーアンプ(フォノアンプ)が内蔵されているためです(本項では、機器に内蔵されたフォノアンプを「フォノ回路」と表記します)。
フォノ入力は、一般的にはプリメインアンプやプリアンプ、ミキサーなどレコードプレーヤーを接続する先の機器に設けられています。しかし、利便性を考慮する、Bluetooth出力を行うなどの理由でレコードプレーヤー側にフォノ回路が内蔵され、LINE出力が備えられることもあります。
本ページでは、このフォノアンプ/フォノ回路が担う役目を解説した後で、アンプ内蔵のフォノ回路からフォノアンプ単体の使用に切り替えた時の利点についての解説を行います。
フォノイコライザーは、カートリッジがレコード盤から拾い上げて電気信号に変換した音声を「等化」または「調整」する機能を担います。
等化とは、「全体の特性を平坦にするために、元の特性を補正する」という意味があります。つまり、低音域や高音域など特定の帯域だけ音量レベルが大きい、もしくは小さい音声信号をフラットな状態に戻すための補正機能をもった機器というわけです。
故にイコライザーという機器を日本語で表すと、「等化器」となります。これこそまさに、フォノイコライザーに要求されていることに他なりません。

フォノイコライザーにおいて、等化を行うための補正がどのように行われているかを示しているのが上図です。
レコード盤に音声を刻む(カッティングする)際は、録音および再生時の技術的な制約で低音をそのまま盤面に刻むことができません。また高音域をそのまま刻むと極めて小音量となってしまうため、カッティングを行う際は元の音声信号(上図では緑の点線)に赤い線で示したカーブの補正がかけられます。
これをカートリッジで読み取り、そのまま再生した場合は極端に低音が瘦せ、高音だけがキンキンと大きな極めてアンバランスな音色になります。
そのままでは音声を正しく再生することができないため、青いイコライザーカーブ(RIAAカーブ)の補正をかけて低音の音量を上げ、高音の音量を下げることで等化を行い、本来の緑の点線位置に音声のバランスを戻す必要があるわけです。こうして等化された音声信号はプリもしくはプリメインアンプのLINE入力レベルにあわせて音量を増幅され、出力されます。ここまでがフォノイコライザーの基本的な機能ですが、製品によっては複数入力の切替が可能であったりヘッドアンプを内蔵してMC入力にも対応可能としているものもあります。

先にも述べたように、フォノアンプはプリメインアンプやプリアンプなどに内蔵されているものが多くを占めます。
この理由の多くは機器を使用するユーザー様の利便性を考慮し、機能として盛り込んだもの(現行のレコード再生に対応したオーディオ機器の場合)であったり、放送局やレコード会社などで指定のカートリッジやトーンアーム、プレーヤーとのセット使用を前提として設計されているもの(例:EMT 927、930シリーズなどの業務用機器)があります。
後者の場合は、使用する機器類全てを設計者の意図通りに組み合わせて使うことが前提となるため、専用フォノイコライザーユニットをプレーヤーに内蔵することへの意義はあります。ただ、機能性を重視して(アンプなどに)内蔵されたフォノイコライザーユニット(フォノ回路)は外部ノイズの遮蔽や電源部のノイズ対策の困難さ、機器全体のトータルコストなどの制約などにより、アナログシステム全体からみると内蔵フォノイコライザーがボトルネックとなってしまうことも少なくありません。
カートリッジやプレーヤーのアップグレードを行っても思ったほどの成果が得られなかったと感じたときや、お気に入りのカートリッジはそのままとしながらシステムの音質をボトムアップさせたいと考えたときなどは、フォノ回路部分を独立させてみることもあわせてご検討ください。
ここからは、内蔵フォノ入力を単体のフォノアンプにアップグレードした際の利点を挙げてゆきます。
①:独立したシャーシをもつことで、外部ノイズを遮蔽(シールド)できる
プリメインアンプやプリアンプに内蔵されたフォノ回路は、多くの場合はプリメイン/プリアンプをフォノ入力に対応させて機能性の向上をねらうためのアイテムとして用いられています。
特に近年はレコード再生への関心の高まりに伴い、エントリーモデルを含む多くのアンプにフォノ入力が再び採用されるようになりました。この結果、皆様がレコードプレーヤーを導入することへのハードルが大きく下がったことは誠に喜ばしいことといえます。
ただ、プリメイン/プリアンプのフォノ回路はシャーシ(アンプの外装ケース)内部に配置されているため、ノイズ対策の困難さは常に伴います。アンプ内部におけるフォノアンプの配置箇所を電源トランスから離す、幾重にもシールドを施すなどの対策が取られていることは言うまでもありませんが、可能であればフォノ回路を内蔵するのではなく、独立したシャーシを備えた単体のフォノイコライザーアンプを用いた方がより容易かつ効果的にS/N比(Signal/Noise比、単位dB。数値が大きいほどノイズが少ない)の向上を見込むことができます。
ちなみに、1950年代末から1980年代初頭にかけては、極めてハイスペックで高音質なフォノ回路を備え、この部分が主役といっても過言ではないプリアンプも多く登場しました。こういった製品の内蔵フォノ回路は、決して単体製品に見劣りしないスペックと音質を備えてはいますが、経年による素子やパーツ、接点の劣化は避けられません。また当該機器専用に開発されていたり廃止部品となって入手困難な真空管や半導体(低雑音仕様のものなど)が多用されている場合もあるため、発売当時の性能を維持することも年々難しくなっています。
高性能なフォノ回路の内蔵を強みとしているかつての名機であっても、数十年の時を経て十分なメンテナンスが困難となるとフォノ回路の不調に悩まされることが少なくないようです。こういった場合も、単体フォノアンプをプリアンプのLINE(AUX)入力などに接続して使用することで、名機を延命させることができるともいえるでしょう。
②:ノイズ発生の少ない専用/独立電源をもち、内蔵タイプよりS/N比に優れる
単体製品のフォノアンプは、自身の電源部から発生する電磁ノイズを極力抑える、または隔離するために様々な工夫を凝らしています。
例としては、オルトフォンのEQA-444ではアンプのシャーシ内部に電源部をもたず、外部式のACアダプターを採用しています。

またEQA-999や2000(ともに生産完了)では、電磁ノイズの原因となる漏洩磁束が極めて少ないRコアトランスを電源トランスに採用し、さらにそれを金属製のシールドケースで覆うといった対策を徹底しています。

電源部がノイズ源となること自体は物理的に避けられませんが、信号の増幅回路からこれを離す、遮蔽するなどの方法で対策することは可能です。単体フォノアンプは、そういった点でも厳重な対策を施しているためS/N比に優れる傾向にあります。
③:シャーシが独立しているため、設置場所の自由度が上がる
先の①と若干重複しますが、単体のフォノアンプはそれ自体のシャーシが独立しているため、アンプの設置場所をある程度選択できることも利点のひとつです。
プリメインアンプやパワーアンプなどの電源トランス至近や直上、電源ケーブルが配されている場所の近くを避けて設置するためには、フォノイコライザーのシャーシが独立している必要があります。よりハイレベルなノイズ対策を行いたい場合などに、この自由度の高さはプラスとなります。
④:フォノアンプに適した、高品位なパーツを採用している
フォノアンプの開発にあたっては、カートリッジとのマッチングや電源ノイズ対策に加え、トランジスタやオペアンプなどの半導体に関するノウハウも問われます。低雑音の通信用途向けあるいは音響用途として開発された半導体の中から特性に優れ、また揃ったものを選別して使用することは必須であり、コンデンサや内部導体の選定しだいで再生される音色も大きく変化します。
このことから、フォノアンプに用いられる素子や導体は基本的に要求レベルが高く、精度や再生音の品位に優れたものが求められます。単体フォノアンプであれば、他機器の内蔵フォノ回路に比べると生産コストの上昇が許容されるため、このようなパーツをふんだんに用いることができます。
また、カートリッジやMC昇圧トランスなどもあわせて開発しているメーカーであれば、自社製品とのマッチングを想定した仕様や音色となるよう方向性が定められています。ご使用のカートリッジのメーカーが単体フォノアンプも生産している場合、まずは同一メーカー間でフォノアンプの単体製品化を行うことを推奨します。